古い辞書は使えない?(前編)
2011年2月5日http://cosme4u.net/
古い辞書は使えない?(前編)
この記事は、メールマガジン「専門辞書!「見つける」技術・使うワザ」のバックナンバーです。
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辞書を上手に使いこなしたい翻訳者や、辞書そのものに
興味のある人に贈る、専門辞書を楽しむメールマガジンです
(2009/03/03) Vol. 4
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はじめましてのみなさま、ようこそ。
ご愛読のみなさま、いつもありがとうございます。
サグラーシェの水野です。
つい最近、『英語名人河村重治郎
』という本を読みました。
半世紀もの長期にわたって、数多くの英和辞典・和英辞典の編集に情熱を注いだ人物の生涯について
記した本です。
はじめのうちは、可もなく不可もなくという感じでゆっくりと読み進めていたのですが、重治郎氏の仕事に
対する姿勢を知れば知るほど魅了されてしまい、後半は一気読みでした。
プロというのは、こういう人のことを言うのでしょう。
現代の翻訳者にも、学ぶことの非常に多い1冊だと思う。
◆古い辞書は使えない?(前編)
────────────────────────────────
辞書は定期的に新しいものにすべき。
翻訳業界では、ときどき耳にする言葉です。
たしかに、時間の経過とともに語義が変わることは普通にありますし、新しい用語が古い辞書には
載っていないということもあります。
ただ、そのことがすなわち、古い辞書はダメだということにはなりません。
むしろ、技術分野によっては古い辞書が重宝するのです。
その典型的な例が、鉱物学や石炭・石油分野でしょう。
専門辞書というのは、時代を反映している側面があります。
たとえば、1920年代から1970年代にかけて、鉱物の結晶構造の解析がさかんにおこなわれていました。
特に、1950年以降はさらに拍車がかかったようです。
そのことは、専門機関の創設がこの時期に集中していることからもうかがえます。
一例をあげると、日本結晶学会は1950年、日本鉱物科学会の前身である日本鉱物学会は1955年。
国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物名委員会は1959年に創設されています。
こうした時代背景からか、鉱物学関係の専門辞書や用語集の出版も同じ時期に集中している。
参考)
ちょっとおもしろいのが、1952年出版の『鉱物辞典』。
この辞書は、見出し語に英語とローマ字が混在している。
たとえば、「Ginorite ギノライト 單斜晶系」の次に「Ginsei-seki 銀星石 Wavelliteを見よ」と続くといった
具合です。
現在はコンピュータを使って簡単に見出し語の並べ替えができますが、当際はそんなことは夢のまた夢。
手作業の切り貼りか何かで並べ替えるときに、英語と日本語(ローマ字)とを一緒にしてアルファベット順に
したのだろうということが、容易に想像可能。
つまり、この時代の辞書には、「英和」「和英」という断り書きがなくても、見出し語レベルで両者が
混在しているものがある、ということです。
そんな古い辞書は使わないから、並び順などどうでもいいと思うかも知れません。
でも、結晶ほどではないとはいえ、鉱物も決して辞書類の多い分野ではないのです。
こうした中で古い辞書を除外してしまったら、訳語特定の手掛かりを逃すことだって、絶対にないとは
いえないですよね。
もっとも、現代の翻訳者が鉱物を調べるのであれば、最初に日刊工業新聞社の『鉱物資源百科辞典』を
あたってみることをオススメします。
いわゆる百科辞典は、専門辞書や用語集に比べると訳語探しで手が伸びにくい資料の部類に入りますが、
『鉱物資源百科辞典』は非常によくできた超優良資料です。
--------------------------------------------------------
鉱物資源百科辞典
--------------------------------------------------------
1998年 日刊工業新聞社 採録約5,000種類
--------------------------------------------------------
鉱物英名索引・鉱物和名索引・結晶系別索引・比重別索引・
光学的性質別索引・硬度別索引・鉱物族別索引・宝石別索引・
産地別索引(索引計315ページ)付き
--------------------------------------------------------
なお、辞書の少ない分野で用語調べをするときは専門書を活用するとよいのは前回説明したとおりです。
鉱物分野であれば、たとえば東京大学出版会の『造岩鉱物学
』などがそのひとつでしょう。
索引は和文索引だけですが、鉱物名の掲載数が多く、本文中に主な専門用語の対訳も併記されています。
また、参考文献の掲載数が多いのも翻訳者としてはありがたいです。
具体的には、章ごとの参考書・引用文献リストが巻末に10ページ分も掲載されています。
これの何が役に立つかというと、自分で調べなくても関連技術分野の資料を一望できる点です。
専門書は、そこに書かれた技術内容そのものだけでなく、参考文献リストまで含めて、正しい訳語を
特定するための重要な手掛かりになり得るのです。
巻末に掲載されていることの多い参考文献リスト。
ぜひ、情報収集手段の選択肢に加えてみてください。
きっと、役に立つことがあると思いますよ。
(次回に続く)
[調べ物のためのキーワードヒント]
角閃石族・岩石・岩盤力学・共生・珪酸塩・鉱業・鉱山・鉱床・鉱物・鉱油・探鉱・熱水鉱床・粘土・漂砂鉱床
[参考資料]
田島伸悟 著『英語名人河村重治郎』三省堂(1983年)
木下亀城 著『鉱物辞典』風間書房(1952年)
牧野和孝 著『鉱物資源百科辞典』日刊工業新聞社(1998年)
森本信男 著『造岩鉱物学』東京大学出版会(1989年)
◇編集後記エトセトラ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
東京や横浜の中心部では雪が降ったという、2月27日。
この日は高校の謝恩会で、わたしはPTAの荷物を片付ける都合などもあって、車で会場まで行きました。
到着後、役員の友人たちに何度も聞かれたのが「雪、大丈夫だった?」です。
はじめのうち、何のことだかさっぱり分かりませんでした。
わたしの住んでいるところでは、雪どころかみぞれすら降っていません。
それなのに、雪だったと聞いてびっくり。
たった15kmくらい違うだけの場所で、かたや結構な量のぼたん雪。
かたやごくごく普通の雨。
海沿いは暖かいとよく言われますが、そのことを実感したできごとでした。
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』という本を読みました。
半世紀もの長期にわたって、数多くの英和辞典・和英辞典の編集に情熱を注いだ人物の生涯について
記した本です。
はじめのうちは、可もなく不可もなくという感じでゆっくりと読み進めていたのですが、重治郎氏の仕事に
対する姿勢を知れば知るほど魅了されてしまい、後半は一気読みでした。
プロというのは、こういう人のことを言うのでしょう。
現代の翻訳者にも、学ぶことの非常に多い1冊だと思う。
◆古い辞書は使えない?(前編)
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翻訳業界では、ときどき耳にする言葉です。
たしかに、時間の経過とともに語義が変わることは普通にありますし、新しい用語が古い辞書には
載っていないということもあります。
ただ、そのことがすなわち、古い辞書はダメだということにはなりません。
むしろ、技術分野によっては古い辞書が重宝するのです。
その典型的な例が、鉱物学や石炭・石油分野でしょう。
専門辞書というのは、時代を反映している側面があります。
たとえば、1920年代から1970年代にかけて、鉱物の結晶構造の解析がさかんにおこなわれていました。
特に、1950年以降はさらに拍車がかかったようです。
そのことは、専門機関の創設がこの時期に集中していることからもうかがえます。
一例をあげると、日本結晶学会は1950年、日本鉱物科学会の前身である日本鉱物学会は1955年。
国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物名委員会は1959年に創設されています。
こうした時代背景からか、鉱物学関係の専門辞書や用語集の出版も同じ時期に集中している。
参考)
ちょっとおもしろいのが、1952年出版の『鉱物辞典』。
この辞書は、見出し語に英語とローマ字が混在している。
たとえば、「Ginorite ギノライト 單斜晶系」の次に「Ginsei-seki 銀星石 Wavelliteを見よ」と続くといった
具合です。
現在はコンピュータを使って簡単に見出し語の並べ替えができますが、当際はそんなことは夢のまた夢。
手作業の切り貼りか何かで並べ替えるときに、英語と日本語(ローマ字)とを一緒にしてアルファベット順に
したのだろうということが、容易に想像可能。
つまり、この時代の辞書には、「英和」「和英」という断り書きがなくても、見出し語レベルで両者が
混在しているものがある、ということです。
そんな古い辞書は使わないから、並び順などどうでもいいと思うかも知れません。
でも、結晶ほどではないとはいえ、鉱物も決して辞書類の多い分野ではないのです。
こうした中で古い辞書を除外してしまったら、訳語特定の手掛かりを逃すことだって、絶対にないとは
いえないですよね。
もっとも、現代の翻訳者が鉱物を調べるのであれば、最初に日刊工業新聞社の『鉱物資源百科辞典』を
あたってみることをオススメします。
いわゆる百科辞典は、専門辞書や用語集に比べると訳語探しで手が伸びにくい資料の部類に入りますが、
『鉱物資源百科辞典』は非常によくできた超優良資料です。
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鉱物資源百科辞典
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1998年 日刊工業新聞社 採録約5,000種類
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光学的性質別索引・硬度別索引・鉱物族別索引・宝石別索引・
産地別索引(索引計315ページ)付き
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鉱物分野であれば、たとえば東京大学出版会の『造岩鉱物学
』などがそのひとつでしょう。
索引は和文索引だけですが、鉱物名の掲載数が多く、本文中に主な専門用語の対訳も併記されています。
また、参考文献の掲載数が多いのも翻訳者としてはありがたいです。
具体的には、章ごとの参考書・引用文献リストが巻末に10ページ分も掲載されています。
これの何が役に立つかというと、自分で調べなくても関連技術分野の資料を一望できる点です。
専門書は、そこに書かれた技術内容そのものだけでなく、参考文献リストまで含めて、正しい訳語を
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はじめのうち、何のことだかさっぱり分かりませんでした。
わたしの住んでいるところでは、雪どころかみぞれすら降っていません。
それなのに、雪だったと聞いてびっくり。
たった15kmくらい違うだけの場所で、かたや結構な量のぼたん雪。
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